蒲田で読書してます

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蒲田で読書してます(13)田中角栄とはいったいなに者だったのか? 真山仁『ロッキード』は足と汗で描く出す渾身の昭和史だった!

リーダー像の典型

田中角栄(以下、角栄という)は1993年に75才で鬼籍に入っている。わたしは当時17才。つまりロッキード事件とわたしは同い年なのだ。世を去る前後、角栄はすでに病身の身であり、ニュース映像では車椅子を押されて、よく涙を流すひとだった。一方、角栄は稀代の政治家であり「今太閤」と称されるほど辣腕を振るい、わたしの親世代からは有能なリーダーと認識されているようだった。いったいなんなんだろう? それが角栄に対するわたしの印象だった。

 

角栄ブーム

ひょんなことで角栄の話を耳にしたのは、下町の飲み友達で、吹けば飛ぶような出版社を経営する男性の「角栄の言葉は胸に刺さる」というフレーズでだった。曰く、会社員は組合等で守ってくれるが個人事業主はだれにも守ってもらえない、そのとき角栄の言葉を読むと勇気づけられるんだよね。

それは2017年前後のことであり、へーと思い、書店に足を運ぶと、別冊宝島編集部編『田中角栄100の言葉』なる本があり、一読したのだ。角栄自身は、乱暴な言い方をしてしまうと、雪深い「田舎の」新潟の出で、そこから土建屋として頭角を現した「叩き上げ」の「成り上がり」というキャリア。たしかにそれは後楯のない市井の庶民にとっては闇夜に輝く一等星だ。しかし、角栄は大疑獄で失脚し、前段にある幽閉状態に置かれてしまう。謎は深まるばかり。

 

ロッキード事件

本書の真山仁(以下、真山という)は、わたしとほぼ同世代にあたる1962年生まれ。『ハゲタカ』等のビジネスを題材に取った小説で大ブレークした作家である。真山も上記のわたし同様、樹海のような謎に引き寄せられ、やれることは徹底的にやるスタンスで取材に入る。ロッキード事件は、角栄が、

総理在任中に、米国の航空機メーカー、ボーイング社から賄賂を受け取り、全日空に同社の「トライスター」を購入するように口利きをした罪を問われた(本書、p12)

と要約されている。真山は、日本の検察、政治家、運輸省官僚、防衛省全日空だけでなく、米国の公文書まで取材の手を広げ、角栄ロッキードを核心とする周辺の事実を、本当に丹念に収集する。圧巻は当時の関係者へのインタビューだ。ロッキード事件は1976年が端緒で、すでに45年近い月日が流れており、直接の関係者は角栄をはじめ鬼籍に入っている。そこで、真山はそれら関係者の部下をあたり、事実を最大限の配慮をもって拾い集める。まさに鬼気迫る姿が脳裏に浮かぶのだ。

 

追跡の果てに

ネタバレになってしまうので、ここでは匂わせるに留めるが、角栄ロッキード事件は東アジアの軍事情勢(CIAの影が見え隠れする)と当時の政治にまつわるビジネス習慣が暴露されたことで引き起こされたと、真山は推理しているように感じる。そのへんは真山もぼやかしているわけで、興味を持たれた方々はぜひ本書を手に取り、ぼやけた犯人の相貌を確かめていただきたい。

最後に。角栄は吃音だったという。それを克服し、政治家として国民に訴えかけ、人気を博した。真山自体も同じ症状を抱えており、角栄のあり方に強い共感を覚えている。つまるところ、ひとがひとを好きになるというのは、そういうところなのかもしれない。

ロッキード (文春e-book)

田中角栄 100の言葉 (宝島社新書)