蒲田で読書してます

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蒲田で読書してます(11)吉田修一『怒り』は巧妙で、それでいて感情剥き出しの、素材そのままの物語だった!

吉田修一さんの小説、お初である。名前は存じ上げていた。2003年前後、仕事の関係で羽田と佐賀を頻繁に飛行機で行き来していた。そのころ、移動中はなぜだか本を読む気が起きず、だいたい手ぶらでフライトに臨むのだが、少しすると活字が欲しくなり、仕方なくANAの無料冊子を手に取ることになる。そこで連載?を持たれていたのが吉田修一さんだった。語り口調に信念のある雰囲気で気にはなっていたのだが、当時の私はエキセントリックなミステリーを読み物として欲していたようで、吉田修一さんの小説を読むところまで行かなかった。そして、2020年、17年越しの邂逅ということになる。

本作は、無理やり分類すると、謎解き要素のある純文学ということになろうか。1つの殺人事件を4つの人生の物語が取り囲む。4つの人生は、どれもこれもはっきり言って救いがない。惚れやすい母親に振り回されて各地を転々とする少女、ゲイの仕事できそうなリーマン、頭のネジの外れた娘と上手く向き合えない父親、まるで原罪を負ったかのようで、3つは1つの殺人事件の容疑者を活写するスコープだが、いずれも片親の家族。補助的な1つの人生は警官の私生活だが、ワーカホリックでどうしょうもない。それらのどうしょうもなさが、ある種のカタルシスを産み出す、とも言えようか。

私としては、このような救いのない物語を書き終えた吉田修一さんと一度お話ししてみたい衝動に駆られる。

「結局、人生ってなんなんでしょう?」

という素人じみたことしか言えないこと請け合いである。

怒り (上) (中公文庫)

怒り (上) (中公文庫)