蒲田で読書してます

完全読書ブログ宣言!

蒲田で読書してます(3)國友公司『ルポ西成』は、なんでも見てやろう式ぶっこみ体験ルポだった!

前口上

ども、鉢碌です🏎

新年度のっけから、コロナ禍中。これは自己研鑽のため、本読むしかない。ということで、積読してた國友公司『ルポ西成』(彩図社)を手に取った。

 

行ってはいけない

子どものころ、親から、あそこは行っちゃダメ、と言われるところはありましたか? 忘れもしない、鉢碌🏎が小学3年生のとき。プラネタリウム見るため、大阪市内の科学館へひとりで電車に乗って行くときのことだ。

新今宮だけは降りたらあかんよ」

と釘を刺された。その新今宮こそ、本書の舞台、西成なのだ。

 

選択ではなく興味

本書の主人公たるルポライターは、大学新卒の男子。筑波大を出ているが、真面目な学生とは程遠く、バックパッカーとして世界を放浪したり、風俗でバイトしたり、裏世界の記事を書いたり、ちょっと「堕落した」感じの若者。結局、4年間を超えて卒業したもんの、まっとうな就職はできず進路に迷っていたルポライターは、友人に出版社を紹介される。そこで、新宿のホームレスの生き方に興味を持っていると話すと、西成の体験ルポを書いてみないかという絵に描いたような流れになる。そのくだりは、なんとなく同じくルポライター沢木耕太郎と似ている。人生の選択なんて、なに気ない、流されるようなもんなんだろう。

 

なんでも見てやろう! 脱力系ルポライターが見た「異界・西成」

で、ルポライターはまず西成のあいりんセンターで仕事を探そうとするのだが、お決まりのアウトローな噂を耳にしてトタンに逡巡。安ホテルに宿泊して、街の雰囲気に慣れるという消極的な選択肢を取る。このへんも沢木耕太郎深夜特急』の冒頭、インドのドミトリーを彷彿とさせる。まあ、フツー、ビビる。なんせ、そこは正真正銘、アウトローが支配する「異界・西成」なのだから。しかし、ルポライターも物書きの端くれ。覚悟を決めて飯場に入り、肉体労働に従事することになるのだが…。

とにかく、飯場で出会うひとたちがスゴイ。「堕落」どころの話ではなく、前科持ち、元ヤクザ、ヤク中という、裏世界の落ちこぼれ。危険と隣り合わせの単純な肉体労働で身銭を稼ぐしか、生きる術を持たない男連中だ。若いころは飯場で稼ぎ、トシを取ると生活保護を受けて安ホテルで生きる屍のように余生を過ごす。その過程を様々なひとたちを追うことで、フローチャートのように描いている。

また、後半、ルポライターは安ホテルのフロントで働き、生活保護受給者の暮らしを描く。前述のように、生活保護受給者は生きる屍。しかし、フロントに文句を言うのだ、俺らは金払ってんだと。で、そのお金って税金だろうが! その矛盾に気づき、ルポライターはアホらしくなるのだ。

 

「堕ちよ、生きよ」とは言うものの

鉢碌🏎は大阪生まれの大阪育ち。そのせいなのか、このルポライターのように西成に入り込もうとは思わない。たしかに「オモロイ」とは思う。西成に関するウワサに若いころから接し、自分も含め、大阪人は西成にまつわるエピソードを持っている。事実、その「オモロイ」側面だけに魅かれ、このルポライター以外にもフィールドワークさながら西成に入り込む若者が紹介されている(写真家を気取る?女子大生)。でも、例えば通学途中の電車の車窓から見える、南海高野線新今宮駅近くの露天市場を目の当たりにすると、正直たじろぐ。なぜなら、その露天市場は風景は、歴史の教科書に掲載された戦後の闇市の写真さながらなのだ。それは「オモロイ」というより「異様」が直観的に先に立つのだ。それはある意味で「いま」なのかもしれないが、「むかし」すぎて恐ろしい、まさにロストワールドなのだ。坂口安吾は「堕ちよ、生きよ」と言ったが、それは堕ちる余地のある者のセリフだろう。このルポライターも同じ気分になったのだろうと思う。

ルポ西成 七十八日間ドヤ街生活

ルポ西成 七十八日間ドヤ街生活

  • 作者:國友 公司
  • 発売日: 2018/09/27
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 
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