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蒲田で読書してます(4)野中郁次郎ら『知略の本質』は、老いてなお前進する男がたどり着いたひとつの解答だった!

前口上

野中郁次郎ら『知略の本質』を読んだ。第1作の『失敗の本質』を手に取ったのは1991年、中公文庫に入った時。爾来、30年間、『本質シリーズ』を追いかけてきた。本作がシリーズの最終、それにふさわしい内容となっている。

 

敗戦を振り返らない国

鉢碌🏎がなぜ『本質シリーズ』に魅かれたのか。それは、学校では教えてくれない「日本はなぜ戦争で負けたのか?」という問いに、正面から答えてくれたからだ。『失敗の本質』では、日本軍の敗因を、「相手が弱い」と決めてかかる想定(ノモンハン事件ガダルカナル)、日露戦争勝利の成功体験(ミッドウェー海戦レイテ沖海戦)に求めた。上記2点により、組織としての日本軍は固定観念に囚われ、柔軟な発想や進取の気性は大幅に制限された、と説く。その結果、悲惨な焦土作戦に訴えるしか選択肢がなくなってしまう(沖縄戦)。この傾向は、現代ビジネスの栄枯盛衰にも当てはまることから、『失敗の本質』は多くのフォロワーを生んだ。果ては『失敗の本質』の解説本まで出版された。野中らは、その後、30年間にわたって戦争を題材にした組織論の研究に邁進、最新の組織論研究の成果を貪欲に吸収しながら、新しい概念を提唱しつづけた(過剰適応、暗黙知、賢慮)。老いても成長を止めない、おっさんの星である。

 

知略とはなにか?

『知略の本質』では、同一の組織による2つの戦いを取り上げる。独ソ戦(バルバロッサ作戦とスターリングラード)、バトル・オブ・ブリテン(アシカ作戦と大西洋の攻防)、インドシナ戦争ベトナム戦争湾岸戦争イラク戦争。いずれの戦いも、年単位の長期に渡り、且つ数十万単位の夥しい死傷者を数える、悲惨さである。そのなかで、試行錯誤の結果、目的はなにかを見直し、勝つためにあらゆる手段に訴えて、総力戦に持ち込んだ者が勝つ。そこには、スカっとした、圧倒的な、カッコイイ勝利は存在しない。泥臭いのだ。さらに、ビジネスの世界で流通する「戦略論」や「戦術論」だけでは不十分で、その2つをつなぐ「作戦」の重要性を説く。その「作戦」を司るのが中間管理職たる現場指揮官だ。現場指揮官は、戦略と戦術を理解して、部下に咀嚼して共有し、様々な矛盾を乗り越え、経時で変化する戦局を目前に都度決断し、包括的な勝利を目指す。そのため、刹那な結果に一喜一憂するような豆腐メンタルでは勝ち残れない、忍耐が必要だと暗に語っている。それは、スピードのみが評定対象となる現代の会社組織へのアンチテーゼのようにも映る。

 

人生は長い、だから簡単に諦めてはならない

『知略の本質』は彼我の戦力に歴然の差があったとしても、明確な意思があれば逆転する可能性があると説く。そのために、野中らは現代思想現象学を援用することも辞さない。ベトナムを見ればよい、宗主国のフランスに勝ち、超大国アメリカを退けているのだ。それは人生にも重なる。自分を信じよう、さらば報われん。