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蒲田で読書してます(1)澤村伊智『ししりばの家』はノワールの香り漂うホラーだった

前口上

どうも、鉢碌です🏎

私は、1年に20冊程度ですが、本を読みます。20代は小説一本槍でしたが、30代からノンフィクションに重心が移り、40代のいまではほぼビジネス関連本しか読まなくなりました😓

そんな鉢碌オジサンですが、いま新刊を楽しみにしているシリーズが2つあります。月村了衛『機龍警察』シリーズと澤村伊智『比嘉姉妹』シリーズです。

今回は、後者の最新刊、澤村伊智『ししりばの家』を紹介します(実際には2017年にリリースされてるようですが、角川ホラー文庫版では最新です)。本作はホラーに分類されますが、ミステリー要素も多分に含んでいます。よって、ネタバレしないよう、詳細はぼやかします、ご安心ください。

 

『ししりばの家』は程よく怖い

本作は、のっけから幽霊屋敷の話からカットインし、一転して、どこにでも居そうな関西出身の女性が仕事(専門性の高い映像系)を辞め、夫に従い東京に越してくる描写に切り替わる。この異常と日常をダブルバインドして読者を引きずる手法こそ、澤村伊智さんの真骨頂だろう。事実、2つの物語を並列で流すことにより、読者は時制を見失い、予定調和を裏切られ続ける。そして、複数の怪異を見せつけられる。しかし、安心してほしい。怒られるかもしれないが、本作は『ぼぎわんが、来る』より怖くない、だから深夜の闇に怯えながらページを繰るところまでいかない(ホラーファンには残念かもしれないが)。一方、これまでのおどろおどろしい暴力的な怪異は影を潜め(慣れたただけかもしれません、本作も殴打系バイオレンスは炸裂です)、記号論の言葉遊びのような展開に読者を誘う。

 

澤村伊智が迫る「人間らしさ」の再考

本作を読んで、澤村伊智さんはじつは「人間らしさ」を定義し直そうとしているのではないのか、と訝っている。つまり「怪異」という異常性で照らすことで「人間らしさ」の孕む背反性を浮き彫りにしようとしてる。仕事、結婚、夫婦、女性の社会進出、妊娠、子ども、親、老人…。これらは、20年前の「人間らしさ」を前提としたあるべき姿からかけはなれてしまっている、機能不全の概念だ。でも、多くのひとたちが、懐古的に「人間らしさ」のあるべき姿に、強迫観念のように取り憑かれている。「人間らしさ」を追求すればするほど、矛盾が高じ、破綻が生じ、「人間」自体が「怪異」に変化(へんげ)する。そして、人格が破綻し、日常生活が壊れる。澤村伊智さんは、それらの概念をモジュール化し、並べ替えて再構築するかのように、禍々しい、これまでとは異なる「人間らしさ」を提示する。やられますな、これは。

 

ホラーとはノワールなのかもしれない

「人間が一番怖い」という言い古されたフレーズに果敢に挑戦する姿は、どこかノワールの巨匠、ジム・トンプソンを彷彿とさせるではないか。書いていて、そう思い至った。だから好きなんだな、私は澤村伊智さんの作品を笑

ぼぎわんが、来る (角川ホラー文庫)

ぼぎわんが、来る (角川ホラー文庫)

 
ししりばの家 (角川ホラー文庫)

ししりばの家 (角川ホラー文庫)